群馬大学大学院医学系研究科 神経精神医学教室Department of Psychiatry and Neuroscience, Gunma University Graduate School.

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統合失調症の「過剰学習仮説」を提案しました

Progress in Neuropsychopharmacology & Biological Psychiatry 誌に掲載

当教室の研究成果が、Progress in Neuropsychopharmacology & Biological Psychiatry 誌に掲載されました。統合失調症の症状が時間とともに移り変わっていく仕組みについて、「過剰学習仮説(Hyperlearning Hypothesis)」という新しい枠組みを提案するものです。

統合失調症では、はじめに知覚の不安定さや幻覚・妄想といった陽性症状があらわれ、その後に意欲の低下や認知機能の障害が前面に出てくる、という経過をたどることが知られています。これまでのドパミン仮説やNMDA受容体仮説は、症状の一部はよく説明できるものの、この「時間とともに変化していく」性質を十分には説明できていませんでした。

本論文では、この経過を2段階の学習ループとして説明することを試みました。第1段階では、NMDA・GABAの機能異常により「予測と実際のズレ(予測誤差)」を測る精度が下がり、知覚が不安定になります。第2段階では、安静時や睡眠中に海馬でくり返される「リップル波」による情報の再生(リプレイ)が過剰になり、不正確なままの情報が何度も学習されて固定化されていきます。このくり返しにより、脳が本来もっている「ひな型(機能的テンプレート)」が少しずつゆらいでいく、という考え方です。

この枠組みで注目したのは、エピソード(急性期)をくり返すたびにひな型のゆるみが積み重なる、という点です。急性期のあいだは、ずれた予測が強く学習されやすい状態にあります。症状がおさまっても、ひな型は元の高さまでは戻りにくく、少しずつゆるみが残ります。それが意欲や考えのまとまりに影響していく、と考えられます。ただし、どのひな型が先にゆらぐかは人によって違うため、同じしくみからでも経過は人それぞれで、決まった段階を必ずたどるわけではありません。

治療との関連では、抗精神病薬がドパミンを抑えることで「あいまいな学習が強まりすぎるのを止める」働きをすると位置づけられます。一方で抑えすぎると脳がひな型を作り直す力も下がるため、ちょうどよい範囲を見きわめることが課題になります。将来的には、脳磁図(MEG)で海馬のリップル波を計測し、この学習の勢いを外から確かめられる可能性があると考えています。

本仮説はまだ検証の途上にあり、診断や治療方針を直接示すものではありません。今後、実際の患者さんのデータでの検証を重ねてまいります。

図:統合失調症の「過剰学習仮説」(Illustrated Summary・CC BY 4.0)

【論文情報】

Takei Y, Sunaga M, Fujihara K, Ohki T, Kato Y, Jinde S.

Hyperlearning Hypothesis: Network disruption and maladaptive learning in schizophrenia.

Progress in Neuropsychopharmacology & Biological Psychiatry. 2026;144:111599.

doi: 10.1016/j.pnpbp.2025.111599